FXとタイミング
この98年に二幕目が始まったタイミングとしては、10月初めに発表された米雇用統計のNFPが悪かったことや、G7で何もできなかったことなどが直接のキッカケになったのかもしれない。しかしより大きな要因としては、この時の金融不安相場が「LTCM危機」だけではなかったということではないか。  もしもこの時の混乱がLTCMだけの問題なら、LTCM救済策が決まったことで、すべては終わったはずである。しかし、問題はLTCMだけではないということがいよいよ明らかになっていったところから、「真の大混乱」ともいえる第二幕が始まったということではないか。  振り返ってみると、LTCM救済策といった混乱相場への処方箋の効き目は2週間ももたなかった。さて、そんなふうに見てくると、今回も17日の米公定歩合引き下げの効果が切れるタイミングにそろそろ注意する必要のある段階に入りつつあるのかもしれない、そんな意識も必要ではないか。サブプライムショックに端を発した信用バブル破裂も、FRB公定歩合引き下げといった具合に政策当局が対応に動き始めたことでさすがに一息ついた形になっている。では今回との類似性が注目されている98年と比較するとどうか。第一回利下げの後も、当局の本音は不安で一杯だったようだ。 98年の場合、大手ヘッジファンド危機を軸にまず展開したが、主役となったLTCM救済策は9月下旬にまとまり、それを受けてFRBは9月末のFOMCで第一回利下げを決定した。しかしこの直後は、まだ不安で一杯だったようだ。 FX取引、FX初心者、くりっく365、FX口座開設、FX資料請求  この年の10月初、ワシントンでG7が開かれたが、朝食会でスピーチに立った当時のFRB議長、グリーンスパンは開口一番、こんなふうに語ったという。「モーニング。普通こんな席での最初の言葉はグッド・モーニングとするが、今朝はとてもグッドなんていう気にならない」。つまり、第一次利下げ後もまだそれほど緊張していたようなのである。  実際に、為替における「最悪事態」は、まさにこの後起こる。G7終了を見極めたように、10月6日から8日にかけてのわずか3日間でドルは対円で25円もの大暴落に向かった。そしてこういった中で、FRBも定例FOMC以外での第二次利下げに、10月中踏み切り、さらに11月も、3ヶ月連続利下げへ動いたのである。  このようなFRBによる「電光石火」の動きに対し、当時の経済専門紙、英FT紙は驚嘆を込めて「FED EXPRESS」と書いたが、そういった中でようやく98年の金融危機騒動も収拾に向かっていった。つまりほとんど一段落つくまで3−4ヶ月かかったのである。これを参考にすると、今回も全体が落ち着くまで数ヶ月程度は想定する必要があるのではないか。  ところで、98年の場合、為替は8月から10月にかけて147円から111円まで何と30円以上もの大暴落となったが、この時協調介入はおろか日本政府の単独でも介入はなかった。介入が実施されたのは、年明け後に再開したドル安が110円割れに向かった局面でのことだった。これを見ると、今回120円台からまだ10円程度のドル安で介入はまずは考えにくいし、為替へG7がすぐに対応できることはきわめて限られるのではないか。 為替の波乱が8月といったタイミングで起こったことについて、政策当局者たちの間ではかなり意外と受け止められていたものの、一方で日中などについては結果的に良いタイミングだったかもしれないといった受け止め方もじつはある。  9月以降は国際的にはG7などが始まり、米国内的には議会が始まり、その中で円安、人民元安が続いたままなら、批判は不可避との見方が有力だった。その意味では、そんな批判が具体化される直前に円、人民元の反発が自律的に起こったということもできる。 FX  たとえば、米国内には為替監視法案で、円安を問題視する動きがあった。また米中間では、中国の外貨準備から米投資会社への出資含み損化を懸念する動きが密かにあった。そういった問題は、今回の為替・株価の波乱がなければ、かえって表面化した可能性が強かった。 FX  逆に、今回の金融市場波乱によって、そういった政治問題が表面化の寸前で回避されたといった見方も、関係者の間ではひそかに取り沙汰されている。先週の為替波乱で、為替リスクの恐怖が久しぶりに実感されただろう。これを受けて、あらためて為替リスク投資、外貨運用の本来の役割および必要性を再確認する段階に入ったのではないか。為替相場の歴史は、大雑把にいっても半分以上が円高だ。その意味では、低金利の中での日本からの為替リスク投資は決して簡単なものではない。ここ数年、そういった印象が薄まっていたのは、もちろん円安傾向が続いていたからである。しかし、上述のような為替の歴史を考えれば、それには自ずと限界があるだろう。  低金利日本からの外貨運用が決して簡単なものでないなら、なぜ外貨運用が必要なのか。逆説的な言い回しになるが、それは低金利だからである。低金利の国内運用には限界があり、その意味で日本が低金利である以上は、外貨運用は不可避の選択肢ということになる。簡単ではなくても、何とか工夫して長く付き合っていかざるをえないのが外貨運用だろう。  このように見ると、外貨運用は資産運用全体の中に位置付けられるのが基本で、単独で積極的に取り組むというのは本来例外的なものだろう。他の資産運用のリスク・ヘッジというのが、外貨運用の基本的役割になると考えられる。 このように、「簡単ではなくても、何とか工夫して長く付き合う」、「リスク・ヘッジ」といった位置付けの外貨運用に、いわゆる一般投資家の為替投資、「FX」のハイレバレッジといった考え方は、基本的には矛盾しているだろう。  外貨運用は、そもそもリスクがあることを認識した上で、なるべくそのリスクを抑える工夫をしながら長く付き合うというのが、本来的に求められてきたものではないだろうか。外貨運用を、よりハイリスク化する動きは、もちろんハイリターンを狙う結果ということだろう。そしてもしかしたら、ハイリスク化は無自覚の結果であり、むしろ外貨運用をローリスクと錯覚した結果のリスク拡充というのが実際なのかもしれない。  このようなローリスク外貨運用という「錯覚」は、ここ数年の円安によって引き起こされた可能性が高いのではないか。円安が長期化する中で、外貨運用はローリスクのような錯覚に陥り、実質的なハイリスク化によりハイリターンを狙う傾向が広がってきたということではないか。 FX  これは、そもそも外貨運用に期待されるはずの「リスク・ヘッジ」という考え方からむしろ逆行する懸念を秘めていた。この考え方を広げていくと、外貨運用は「リスク・ヘッジ」から、果てしなく「投機商品」化する見通しとなるだろう。  最近の為替相場の波乱により、為替リスクが久しぶりに再認識されたのではないか。外貨運用には、そもそもリスクが存在する。それでも、日本が低金利である以上、リスクを覚悟の上で外貨運用との付き合いは不可欠である。今回の波乱相場が、そんな基本認識を思い出すきっかけになる可能性はあるのではないか。 先週からの急激な為替の動きにより、2日間で20円もの記録的なドル大暴落を演じた「98年10月の悪夢の相場」再来が注目を集めている。実際それはどんなものだったのか、あらためて検証してみたい。98年の相場は、まず8月ロシア・ルーブルの突然の切り下げから幕を開けた。この後から、金融市場はにわかに騒がしくなる。  主役の一人を演じたのは、大手ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネージメント(LTCM)。ノーベル経済学賞を受賞した2人の学者が中心に運営している「必勝のヘッジファンド」が、債券の裁定取引や円キャリー取引等で巨額の損失を抱えているといった疑惑が広がると、信用不安はまさに燎原の火のごとくに広がりはじめた。  ここでもう一人の主役として登場するのは、世界の金融市場の首都、NYの番人であるNY連銀。NY連銀中心に、9月下旬、LTCM救済策がまとまる。そしてそれを受けて、FOMCは9月末第一次利下げに動き、信用不安の沈静化を目指したのである。  しかし、こういった動きに為替市場は大きく反応した。そもそも8月まで147円といった具合に記録的な円安・ドル高が展開していたため、その反動の影響も大きかった。信用不安拡大に伴うリスク回避と、米金利低下期待の中でドル安・円高は急加速。147円を記録した8月11日からちょうど一ヶ月後の9月11日には128円台まだドル急落となった。  その後はいったん一進一退の動きになる。LTCM救済などを見守りながら、10月初めにかけては一時136−137円まで円安・ドル高に戻す場面もあった。しかしそれもつかの間、その後は記録的なドル大暴落が起こることとなったのである。  10月7日、その日のドルは129.75円で寄り付いた。しかし一時は118円台まで最大10円以上のドル安となった。さらに翌7日、121.80円で寄り付いたドルは、一時111円台まで下落した。結局7−8日のたった2営業日で130円から110円近くまで、何と最大20円のドル大暴落が起こったのである。 なぜ、このような大混乱となったのか。一つのキーワードは円キャリーだった。信用不安がくすぶり続ける中で、米株、ダウ平均は7月中旬の高値から8月末までに約2割の急落となっていた。その後も株価低迷が続く中、円キャリー解消は、当初の利益確定として広がった。  しかしその後は円キャリーのコスト割れの水準まで円高・ドル安が進んでくる。そんな損切りの円買いが拡大する中、ある大手ヘッジファンドが円キャリー取引で数十億ドルの損失を抱えて破たん含みになっており、その大量のドル投げ売り思惑が浮上。そういった中で、あの10月7−8日、史上最悪のドル暴落劇が起こったのである。 FX  この98年の金融混乱については、この数ヶ月、「投資の神様」とされるW.バフェットなどが最近はそれが再来する危機的状況にあるといった警告を発していた。そういった中で、7月頃から、サブプライムショックなどを一つのきっかけに、ヘッジファンド破たん、信用不安拡大、株安、円高といった具合になってきたわけだ。  先週からの大混乱で、いよいよ98年の再来が注目を集めているようだが、神様たちの予言はついに的中したのか。今後の動きで今回と98年の違いが試されていくこととなる。